AIR 発売元:KEY 発売日:2000年9月8日 記入日:2000年12月12日 |
一部のギャルゲーファンにとっては、新入団した超大物選手がプロの舞台に上がる瞬間を待つ気持ちだったでしょう。爆発的人気を博したkanonを作ったkeyの最新作「AIR」が発売されました。(とはいっても、もう発売から3ヶ月以上経っているのですが) 一体kanonをやった何%の人がこのゲームをプレイしたんでしょう? 私もその一人ですが、そのほとんどの人が同じ目でこのソフトを見ていることでしょう。 「AIRは、kanonを超えることができるのだろうか?」 kanonは罪なソフトです。出来が良すぎたがために、以降の作品を作る製作者側に、多大な負担をかける結果となったのです。冒頭同様スポーツに喩えますが、偉大な選手の二世に注目が集まるのは当然のこと。そして、二世が父を超えることは非常に稀なのです。 当然Key側もそんなことは100も承知のことのはず。元々美しさを演出するのに妥協をしない姿勢なのは、kanonをやれば一目瞭然。今回もkanonを超えたと自信を持っていえるはずの作品を世に送り出したはずなのですが、どうだったでしょうか? …御存じの方が殆どと思いますが、ゲーム内容の方を。 主人公国崎住人は、手を触れずに物を動かす「法術」を使う青年。その力を使って人形劇で稼ぎながら旅をする彼の目的は…? その旅先…路銀が尽きてバスから降りたところは、海辺の小さな田舎町だった。早々に立ち去る予定だったが、その町でいつでも笑っている不思議な少女 『神尾観鈴』 に出会ったところから、暑い夏の切なく悲しい物語が始まる…。 先ほど説明した観鈴以外に、右手に巻いたバンダナがチャームポイントの 『霧島佳乃』、綺麗な外見に似つかわしい奇怪な言行が妙に笑える 『遠野美凪』 の三人が攻略可能。攻略人数はkanonに比べて減った分、1シナリオあたりの濃さが要求されますね。 さて、例によって例のごとく、まずはゲームシステムから行きましょう。 はじめに断っておきますが、私自身はWINDOWS2000でゲームをプレイしています。 インストールなのですが、別段処理を行ったわけでもないのに、ブルーディスクを入れたとたんインストール状態になっていて、ちゃんとインストーラーが働かない状態になっていました。存在しないはずのフォルダをアンインストールすると、ちゃんとインストールできたのですが、これ、何でだろうね。 まあ、それはあまりゲーム内容のほうと関係ないから、おいておくとしよう。 操作面ではあまりkanonから変更のあった箇所はなし。まあ、可もなし不可もなしといったところでしょうか。大きく変わったところといえば、フルスクリーンだと画面に入りきらなくて、画面から隠れているところは使わないセーブ箇所。(笑) さりげなくドラッグで引っ張れるメッセージウインドウと、小さすぎて選択しにくい読み返しボタン。しかも、説明書に記述なし。1回目の中盤ぐらいまで共に存在に気づかなかったからね。 実はこれ、説明書には書いてなくて、ブルーディスクの中に入っている「オンラインマニュアル」(オンラインじゃなくてオフラインじゃないのか?)に記載されているんだよね。はっきり言って、ゲームからマニュアルを呼び出せるようにしておいてくれないと、そんなところにあっても見ないですよ。私は、ゲームクリアするまで他の楽しみは一切合財とっておく主義なんだから。 …次にグラフィック。もともと綺麗なのはともかくとして、今回力が入っているのは、時間や場面による細かい色使いや小道具の変化が目に付きましたね。(ブラインドとか) キャラクターグラフィックも細かい変化が多かったような気がします。どろり濃厚ジュースみたいに、明らかにシナリオのためだけに書かされたようなものもあって、絵描きさん苦労したんだろうな〜と思ってしまいました。 それよりもオープニングは気合入ってます。あの、だんだん色が変わっていく演出、階段を駆け上がって(?)行くシーン、数回見るだけなんて勿体無いような気がします。 いつも期待の音楽は、個人的にはkanonよりいいですね。個人的にお気に入りの曲は、田舎の夏のイメージが見事に出ている観鈴のテーマ「夏影」、あとは個人的趣味で「夜想」、一番いい場面で掛かっている「銀色」など。後半を織り成す曲はすべていい感じでゲームを演出していると思います。まあ、頭に残るかどうかという話となれば別なんですが…。 残るといえば、オープニング曲の「鳥の詩」ですね。とてもリズムがよくて、即効覚えてしまいましたよ。あとの歌もとてもいい感じです。 さて、ゲームの総合評価と行きましょう。 まず、終わった後に私が思った感想を一言。 「なんだこりゃ?」 …悪い意味じゃありません、あまりにもの物語の切なさに、感動を通り越してちょっと呆れてしまったんです。 基準にしていいものかどうか疑問なのだが、やっぱり冒頭でああ書いた以上、kanonと比較対照するとします。 まずゲームボリューム。kanonと比較にならないほど長いです。その長さは、信じられないことに一部のプレイヤーに「長すぎる」と文句を言わせたほどで、これは驚嘆に値するでしょう。RPGならともかく、メッセージだけでゲームを構成するADVでそう言わせるのに、いったいどれだけの文字量がいるのか…。 疑問に思った人は最後までやって見て下さい。 内容のほうも見事としか言いようがありません。とにかく切なく悲しい物語がこれでもかというくらい押し寄せてきます。最後の最後は、あまりにもの悲しさに「いい加減にしろ!」とうれし泣きするぐらいですよ。(意味不明) 本当に、このゲームには幾度となく泣かされました。 相変わらず、脇役を使いこなすのがうまいですね。ゲームの説明書で、攻略可能のヒロインの数よりも、脇役のほうが多く紹介されていることからも、そちらに気合を入れていることがよく解ります。kanonの佐祐理さんや秋子さんもそうでしたが、佳乃シナリオの『霧島聖』、美凪シナリオの『みちる』、そして観鈴シナリオの『神尾晴子』と、強烈なインパクトを持つ脇役がゲームを盛り立てています。 ただ、そのことがこのゲームの欠点に繋がっているような気がします。あまりにも脇役の個性があまりにも強いので、ヒロインが陰に隠れてしまっているのです。決してヒロインたちが無個性なわけではないのですが…。(むしろ、他社ゲーと比べればかなりの個性派ぞろいなんですけど) どれだけ美しく綺麗な物でも、後ろから強烈な光が射せばはっきりと見えないということでしょう。脇役をしっかり作るというのは、名作を作る上での必須条件だとは思いますが、少しバランスが崩れてしまっているような気がします。やっぱり、本当に重要なのはヒロインなのですから。 それと、話が大きく複雑になりすぎたおかげで、すべてが終わったときにすっきりした感じがしないのが難点ですね。kanonの一部シナリオでも感じたのですが、Keyは話を綺麗に見せようとしすぎていろいろ練りまわった挙句に、結末が解りづらいものになっている感があります。AVGは基本的に一回やったら終わりだと思うので、その一回で「ああ、よかった」とプレイヤーが納得できるものに仕上げて欲しいですね。それさえきっちり出来ていれば、その結末がハッピーエンドだろうが悲しい結末だろうが、私はいいと思います。たとえバッドエンドでも、それでも納得できるものをKeyは作れるのですから…。 ちょっと批評が続いたようなので、この辺で手のひらを返しておきますか。 このゲームで特に評価したいのは、後半の引っ張り具合ですね。kanonもかなり引っ張ってくれますが、このゲームは尋常じゃない。涙涙の連続で、ほんとによくここまで練りこんだことだと思います。並大抵の努力では、これだけのものは作れないと思います。他のメーカーもこの根性は見習って欲しいですね。 シナリオの内容に関してですが、賛否両論の意見が飛び交っているようです。私は基本的に他人のレビューは見ないので、友達から聞いた意見だけが便りなのですが、kanonの方がよかったと言っている人が私の周りは多いです。原因は、先ほど書いたキャラクターの個性と、シナリオ内容の好みにあると思います。 ただ、私はそのシナリオの練りこみようと、スタッフの意地に敬意を表し、敢えてAIRを推します。本当に、この話は一回は読んでもらいたいです。 …しかし、これを作ってしまったKeyは、次は何を作るんでしょうね。AIRよりもさらに深いゲーム? そうなったら、もはやそれはマリアナ海溝でしょう。そんな光も通らないような深みに行かなくていいから、もっと見やすいところで美しい物語を展開して欲しいですね。 |
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